コラム


2011/3/8
精力善用

 「精力」とは「心と身体」のこと、「善用」とは「最善活用」の略で「最も効率的に使う」ということである。そもそも、講道館柔道創始者嘉納治五郎先生の説いた柔道の二大道標として「自他共栄」とともに、根本精神として教育的価値を含ませた理念である。

 自分が持つ心身の力を最大限に使って、社会に対して善い方向に用いることをいうのだが、柔道に限った理念ではないようだ。日々の生活にも応用されるべきで、フェルデンクライス・メソッドというものを学んでゆく場合、自分自身についてもそうだが、相手の潜在能力も引き出すことにあてはまるのではないか。

 人が何かを成し遂げるには、目標が先ず必要だが、その目標を達成する為には、心、知恵、身体を最も効率的に働かせる必要がある。スポーツ全般によく言われる心技体も同様で、それぞれのバランスが重要だ。「精力善用:心身の力を最も有効に使用する」を実生活に活かすことによって、人間と社会の進歩と発展に貢献すること、すなわち「自他共栄:自分と他人が共に栄える」が成され、人間と社会の進歩と発展に貢献することとなる。

 フェルデンクライス・メソッドにおいて、それを教える者は「心と身体」を効果的に使い、対象者の「心と身体」の潜在している能力を覚醒させることが望まれる。ここでは、単に身体を動かすことによって心をどうこうとか、別物に捉えるのではなく、「精力」つまり一つとして捉えるように出来ることが望ましいのだろう。私自身のリハビリテーション現場における過去を考えてみても、身体にだけ焦点を当てることが多く、効率的に自身も対象者にも関われていなかったようだ。

 「術」にとらわれているような学びでは、「精力善用」に到達することが出来ない。我々は、「道」によって自己完成を目指すことが求められているところであろう。嘉納治五郎先生が「柔術」から「柔道」に改め、「道」を講ずるところという意味で名付けられた「講道館」にも納得がいく。

「The Potent Self : A Study of Spontaneity and Compulsion」(著)Moshe Feldenkrais

 直訳すると「自己の潜在的能力」とでも言えるかもしれないが、この本の私なりの解釈や内容を定期的にアップしてゆくので、「精力善用」との関連について考察したいと思う。



2010/11/22
コミュニケーションスキル

 クライアントとの関係性を構築するためにはコミュニケーションスキルが要求されます。第一に、問診やインタビューによって情報収集をしなければなりませんし、リスクマネージメントにもつながります。このコミュニケーションを通してラポールや信頼関係が築かれ、クライアントが能動的に(積極的に)参加してくれるようになります。どんなにすごい技術を持っていたとしても、対象者との関係が築けなければ何も始めることは出来ません。インタビューを通して問題点を推察し、テストのプランを立てる必要があります。テスト(リファレンスの動き)を終えてから、仮説をいくつか立案することがやっと可能となるのです。

 しかしながら、必要な情報を収集出来ない、それ以前にコミュニケーションがとれないようでは一歩も先に進めません。対象者の方が入室した時点から観察は始まっています。対面して挨拶をする前から推察が進められています。ここで会話の切り口をプランニング出来ればテストがスムーズに行えます。また、ニードとホープとディマンドの違いにも留意しなければならず、対象者に対して「どうなりたいですか?」「望みは何ですか?」「何を手に入れたい、何を獲得したいですか?」と簡単には聞けないでしょう。このような質問は欧米的で、日本人の伝統的な気質には反するところが多少あるように思います。

 また、コミュニケーション能力とインタビューにおけるコミュニケーションスキルとではニュアンスが異なります。現代ではメールやブログ、ツイッターなどコミュニケーションのとり方は多種多様になってきました。コミュニケーション能力はこれらのことをしていれば多少は向上するでしょうが、対象者を前にしたインタビューではこのようなコミュニケーション能力(双方向性ではあるが、双方向性ではない)はあまり意味をなさず、関係性を構築するうえで阻害因子にも成りかねません。対面して、さじ加減や語尾の上げ下げ、表情や言葉の選び方、座った位置やパーソナルスペースなど、その時々で場面は常に変化しています。TPOにあった臨機応変さが要求されるからです。

 コミュニケーションスキルを磨くには、実際に人と話をしながら身につける方法が一番手っ取り早いでしょう。美容院やタクシーに乗った時に話しかけられて、逆に気を使ったりストレスに感じたことはありませんか?同じような思いを対象者の方にさせていませんか?自分の欲しい情報を引き出そうとするあまり、一方的で半ば尋問のようなことをしてしまったことはありませんか?コミュニケーションというスキルは徒手による技術と同等、いやそれ以上かもしれません。しかし、いつでもどこでも練習できる技術ですので、しっかり磨いてゆきましょう!



2010/10/21
機能解剖学

 ヒトの身体に携わる場合、身体の仕組みについて知っておく必要があります。フェルデンクライス・メソッドを行う場合、どの程度必要なのでしょうか?特にF.I.(Functional Integration)を行う際、どこに何が起こっているのか?(観察も含めて)どこに触れていて、どういった動きを学んでほしいのか?を理解する上では、解剖学的知識や運動学的知識はある程度必要なのかもしれません。

 しかしながら、創始者のモーシェは解剖学的な細かな点を忌み嫌っていたと言われています。これは、知識に偏重した見方や捉え方に陥らないよう、また目前の対象者を感じる際の邪魔になること、2次元の知識でしかないことなどが考えられます。

 私自身は理学療法士であり、身体の仕組みや構造、動きや触診について長年学んできましたし、リハビリテーションに携わる理学療法士・作業療法士は観察、解剖学、触診などのスペシャリストであると思っています。そして、現在まで多くのセミナーで触診や解剖学の講座を行い、また養成校の教員をしていた時には医科大学の解剖学教室にて献体の解剖をさせていただく機会も得ました。

 ですが、数年前よりフェルデンクライス・メソッドを学び始めて、今までの知識や触診方法に違和感を覚え始めたのです。「対象は3次元でしかも生きているのだ、今までのセミナーで実技を指導してきたことは、本当に効果的なものを提供できていたのだろうか?」と感じるようになりました。フェルデンクライス・メソッドに出会ってから、セミナーでの指導内容も少しずつ変わってきたように思います。モーシェに叱られないよう、感じる触診、つながりを持った身体の見方を考えながら知識に偏重しないよう行っています。

 12月に京都でワークショップを開催予定です。ここでは、感じる触診やつながりを持った身体を理解することをテーマに参加者とともに作って行けたらと思います。対象は理学療法士、作業療法士のみならず、身体の動きに携わる方や身体に興味のある方など幅広くしようと思っています。身体の構造を理解し、動きを感じながら、学びを深める時間を持ちませんか?

( 12月25日(土)ハートピア京都にて『Integrating Palpation〜つながりを感じる触診〜』 )



2010/9/23
身体内部についての気づき


 
自分自身の身体に対する気づきが、ヒトとして活動する、ひいては生存するために必要不可欠なものであることを認識している人は少ないでしょう。気づきが無ければ歩くことさえままならず、立ったり座ったりすることさえ出来ません。身体内部の気づきが低い場合、身体の様々な部分に問題を生じさせます。
 
 例えば、肩の痛みや腰痛などが良い例で、姿勢や筋肉の使い方をより上手に使用する方法を知らない、または忘れてしまっているからです。何か活動や動作をしようとする時、呼吸や身体各部の位置を確認し、無駄な緊張がないか自分自身に注意を向けるだけで多くの問題は予防出来ると思います。
 
 スポーツの現場でトレーナーとして活動していますが、アスリート達はこの様な無駄な緊張がパフォーマンスを低下させたり、怪我や故障の原因になることを知っているため、身体内部についての気づきが高いと言えるでしょう。トレーニングの付加的な要素として備わっているようです。また、トップアスリートになればなるほどパフォーマンス向上には欠かせないものであると言えます。

 私の過去の臨床場面においては、正しい動きと間違った動きに区別して、対象者を正しいと思われる動きに無理やりはめ込んでしまっていました。型通りに動かす、あるいは型通りの動きを習得させていました。動きが正しいか間違っているかにこだわって、どのように動いているか?ということに関心を持っていなかったからです。大変窮屈な思いをさせたり、無駄な時間を浪費させたかと思うと自分の未熟さを悔やんでしまいます。

 幸いにもフェルデンクライスメソッドに出会い、多くのことを学ぶ機会を得ました。自分自身の身体内部に目を向け、様々なことに気づき、学び方を学ぶことで新しい可能性の扉が開くことを知りました。

 人生をよりよく過ごしたい、あるいはもっと良いサービスを提供したい、興味や関心があって体験してみたい、そのような方は是非一度、ワークショップに参加してみてください。(つづく)

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