在宅介護者に対するフェルデンクライス・メソッド
−ケアにおける身体の使い方への一考察−


key words:在宅介護、フェルデンクライス・メソッド、身体の使い方
【目的】
 在宅介護者にとって日々のケアは大きな負担となる。介護者自身の身体機能も低下していることが多く、身体的負担は計り知れない。また、ストレスの蓄積により精神的負担も増大し、リハビリテーションに携わる理学療法士として、その負担を軽減する必要性は年々増加傾向にある。今回、在宅介護者に対して身体的負担の軽減を目的にフェルデンクライス・メソッドを指導したところ、身体の使い方が向上し介護負担が軽減したので考察を交え以下に報告する。
【方法】
 対象は60歳代女性、左変形性股関節症を罹患しており、身長140cm代、体重30kg代と小柄。在宅にて90歳代の父母を介護している。介助方法の指導を主に行っていたが、実際場面では指導どおりに行うことが出来ない、または指導方法を忘れてしまうことが多い。そこで、動きを通して自分自身の身のこなしに注意を向けるフェルデンクライス・メソッドを指導することとした。フェルデンクライス・メソッドは介助技術の具体的な方法を指導するものではなく、セラピストの言葉を聞きながら対象者自身が自ら動いて気づきを高めるものである。対象者に対して1回20分のレッスンを週2回から3回の頻度で3週間行い、レッスン導入前とレッスン導入3週間後の介助時の主観的な変化と介助方法の客観的変化を比較検討した。なお、本発表について対象には十分説明をし、同意を得た。
【結果】
 主観的結果は、レッスン導入前では腰部痛、股部痛の訴えが多く、介護についてネガティブな発言が多かった。レッスン導入3週間後では、疼痛の訴えは減少し、介助方法についての質問や自分自身の身体をケアする意識が出てきた。客観的結果は、オシメ交換時の身のこなしをチェックしたところ、レッスン導入前では手際も悪く、寝返りをさせることに難渋していたが、レッスン導入3週間後では、自分の身体を上手く組織化して少ない力で容易に行えるようになった。
【考察】
 主観的な変化は、レッスンを行うことで自身の股関節や腰部の問題を改善させていったためと考えられる。身体に注意が向くようになり、楽で心地よい運動を行う習慣が身について、介護に対する意識の変化が起こったためと考えられる。客観的な変化は、自身の身のこなしの変化とともに対象の身体にも注意を向けることで、互いに楽なやり方を発見できたためと考えられる。今回の事例を通して、フェルデンクライス・メソッドは介助やケアの負担軽減の一助となり、介護に対する意識を変化させる効果が示唆された。

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