脳卒中片麻痺患者に対してフェルデンクライス・メソッドを用いた一症例


key words:脳卒中片麻痺患者、フェルデンクライス・メソッド、筋緊張
【目的】
 脳卒中片麻痺患者の動作を阻害するものの一つに筋緊張の異常があげられる。特に、動作を遂行しようとした際や、姿勢の変換などで著明に現れやすい。視床出血による不全麻痺を呈した脳卒中患者に対して、フェルデンクライス・メソッドによるフェルデン・タッチを用いたアプローチを行った。フェルデンクライス・メソッドとは物理学者モーシェ・フェルデンクライス(1904−1984)により開発された。小さな動きを通して身体感覚を高めるメソッドで、ATM(Awareness through movement:動きを通しての気づき)とFI(Functional integration,機能統合:繊細なタッチや動かし方による)に大別される。対象者自らが学習プロセスを認識し、自己の身体の変化に気づき、効率の良い身体の使用法を日常化していく体性感覚へのアプローチといえる。一方、従来の徒手的なタッチによるアプローチでは他動的、一方的なものになりがちで筋緊張の制御に難渋することが多く見られた。そこで、本症例を通してフェルデンクライス・メソッドによるタッチが、筋緊張の制御に対して有効であると、臨床で確認することを目的とした。
【方法】
 対象は、左視床出血による右不全麻痺の50代女性。視床痛の訴えが強く、静的な場面でも痛みによる筋の過緊張が認められた。随意性は保たれているものの協調した動きが行えず、動作時に筋緊張が亢進し起居移動動作困難であった。リハ開始当初はクリニカルリーズニングを行いながら、従来の他動的、一方的な運動療法を中心に行ったが、動作時の過緊張を制御することが困難であった。そこでフェルデンクライス・メソッドによるフェルデン・タッチを中心にしたアプローチを行い、過緊張の制御を試みた。フェルデンクライス・メソッドでは、ソフトタッチで他動的に頭部・体幹・四肢を動かしながら動きによる身体感覚の変化を気づかせるよう実施した。これまで行ってきた手法に比べて対象者自らが身体感覚の変化に気づくことが可能であり、どのように動かせばよいかという学び方を学ぶきっかけを得ることができる。
【説明と同意】本研究に対して対象者に十分な説明を行い、その説明内容を納得・同意した上で実施した。また、結果を発表する場合、個人情報が明らかにならないことを対象者に対して十分な説明を行い、以上の同意書に署名していただいた。
【結果】
 過剰な筋緊張により起居動作や歩行が阻害されていたが、動作時の過緊張は抑制され、動作の再獲得が可能となった。静的な臥位での過緊張も抑制され、視床痛の減少も認められたためリラックスした臥位をとることが可能となった。リハ開始当初は過剰な緊張を伴った介助歩行であったものが、介助無く、過緊張が制御された歩行を再獲得することができた。
【考察】
 従来の手法では、機械的に繰り返す運動となり、体をどのように動かせばよいかという学びを喚起することが不十分であったが、フェルデンクライス・メソッドによるタッチでは学ぶきっかけを得て、動作に対する動機を意欲が高まったことが考えられる。自身の状態に対して、気づきが起こったことが過緊張の抑制に繋がり、効果を対象者自身が認識しやすくなったため、ADLの自立度が向上したと考えられる。他動的な方法では一過性の効果は得られるものの、対象者自身に気づいてもらうことや、運動の組み立てに対する配慮が欠けていた。そのため、矯正、改善、向上を目的とした他動的誘導、指導に偏ってしまっていたことが考えられる。本症例では、フェルデンクライス・メソッドにより、学習過程を通して機能の統合がなされたことが起居移動動作やADL能力の改善に繋がったと考えられた。第43回および第44回日本理学療法学術大会ではアスリートの競技復帰、アスリートの傷害予防におけるフェルデンクライス・メソッドの有効性を示唆した。今後は、臨床場面での活用を広げて様々な疾患で応用してゆきたいと考えている。
【理学療法学研究としての意義】
 脳卒中患者に対してフェルデンクライス・メソッドのタッチを用いることは、筋緊張制御の一助となる。その結果、日常生活全般の動作の中で効率の良い身体の使用法を日常化する手段となりうる。

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